奨学金について
奨学金返済などの相談窓口の設置
≪鈴木努≫ 奨学金制度についてお伺いします。奨学金制度は、学生の未来と希望を後押しするものでありますが、奨学金をめぐる状況はかつてとは大きく変わり、奨学金という借金が若者の未来を押しつぶす状況となっています。現在、奨学金を借りると、平均的なケースで300万円(月5万円を4年間、入学時の費用)、大学院進学では、多い場合に1000万円もの謝金を背負って社会のスタートを切ることになります。
総務省の就業構造基本調査では、非正規雇用など不安定雇用が広がり、卒業後の収入が不安定となっており、大学・短大を卒業した30代から50代の3分の1以上が年収300万円未満の賃金で働いています。そして日本学生支援機構のまとめでは、2013年には奨学金を利用する学生が144万人で、その内滞納者が33万4000人となっています。奨学金の返済は、期日から1日でも遅れると滞納利息金が上乗せされ、滞納が3カ月以上続けば、「金融」のブラックリストに載せられます。このような状況の中で、「多額の借金」を恐れ奨学金を借りたくても我慢する学生も増えているなど深刻な事態も生まれています。
私がお話を伺った市内の大学に通う学生からは、「月5万円の奨学金を借り、親からの仕送りもないので、授業のない土日は常にアルバイト。卒業してからは300万円近くの奨学金の返済が始まるので、卒業後がとても心配」、「数か所のアルバイトを掛け持ちしているので大学の講義を受けるのがしんどい」等の声が寄せられました。
当市でもこのような学生の状況を把握するような調査や奨学金返済などの相談窓口の設置などの対応が取れないものでしょうか、お伺いします。
奨学金の無利子化・給付制奨学金創設について
奨学金は、1998年から2014年の間に、貸与額で4.9倍、貸与人員で3.7倍に拡大し、いまや2人に1人が奨学金を借りています。大学生協連の調査では、勤労者の所得の減少により、親からの仕送りが月額10万円から7万円に減っています。その一方で大学の学費は上がり続け、初年度納入金は、国立で83万円、私立文系が約115万円、私立理系で約150万円にもなっており、こうした状況のもとで、奨学金に頼らざるを得ない若者が増え続けています。しかし、政府はこのような状況の中でも、有利子奨学金の拡大という「奨学金のローン化」で対応してきました。1984年に「無利子奨学金の補完措置」として導入された有利子奨学金は、当初、貸与額が5%だったものが2014年には、75%となっており、補完どころか主流となっています。有利子奨学金は、最大で年利3%の利子負担が生じます。その場合、貸与額が300万円であれば、85万円もの利子負担となります。奨学金というのであれば、利子はとらない、これが教育行政としての最大限の責任ではないでしょうか。文部科学省も「奨学金は無利子が根幹」としてきました。返済における負担軽減の第一歩は、本来の姿に戻して負担を減らすことです。
奨学金は、金融商品である「教育ローン」であってはならないと思います。「教育ローン」の対象は親であり、金融機関は借入者である親の所得や資産を査定して融資を決定します。所得も資産もない学生を何百万円もの借金を負わせて利子を取り立てる「ローン」の対象とすること自体そもそも間違っているのではないでしょうか。
奨学金制度の本来の趣旨からも、無利子化は必要と考えますが、いかがでしょうか、また、現在の奨学金制度における教育長のご所見をお伺いします。
文部科学省が設置した「学生の経済的支援の在り方に関する検討会」も「貸与型奨学金の返還の不安を軽減していくことが重要」としています。奨学金の返済という将来の不安を払拭させるためにも奨学金制度の抜本的な見直しが必要と思います。
特にも、教育を受ける権利を保障する奨学金は、貸与型から給付型にしていくべきです。現在、先進国(OECD加盟国)で大学の学費があり、返済不要の給付奨学金がないのは日本だけとなっています。世界の中でも最も高い学費でありながら、給付型奨学金制度の導入が先送りされ、先の国会の中でも「ニッポン1億総活躍プラン」で大学生等を対象にした返済不要の「給付型奨学金」の創設について「課題を踏まえて検討する」と明記するにとどめ、導入が先送りされてしまいました。
本来、国民の権利を保障するための奨学金は、借金となってしまうような貸与型でなく給付型とするべきで、経済的な理由から大学で学ぶことを断念せざるを得ない若者を支援していく必要があると思いますが、教育長のご所見をお伺いします。合わせて、国に対しても給付型奨学金を早期に実施するよう求めていただきたいと思いますが、いかがでしょうか、お伺いします。
奨学金返還支援の創設についてお伺いします。若者の定住を促進させるという形で、自治体独自に奨学金返還への支援を行っている自治体が生まれています。寒河江市では、山形県と連携し、将来の担い手となる若者の定住促進のために日本学生支援機構の第一種奨学金を利用し、一定要件を満たす学生を対象として、奨学金返還に対する支援を行い、4年生大学を卒業した場合には124万8000円を上限に支援しています。北秋田市では、市が指定する奨学金を借りて高校または、大学などを修了または中途退学をした人を対象に最大で2分の1を助成しその期間が最大で5年間となっています。また県内でも花巻市で今年から市の奨学金を返還し、市内の認可保育園で勤務している保育士を対象に、奨学金の半額を補助する「ふるさと保育士確保事業補助金」制度が始まっています。
若者の定住促進や専門職の人材確保など奨学金を利用している学生に安心を与えられる制度として当市でもこれらのような奨学金の返還支援制度の創設を検討していく必要があると思いますが、いかがでしょうか、お伺いします。
日本の教育への公的支出は、先進国(OECD加盟国)の中で最低水準となっています。政府は、「大学の競争力の強化」などと言いますが、国などの教育への支出が「先進国最低」では、競争力の強化にはなりません。日本の大学教育は、家計の重い負担で支えられてきましたが、それも限界に来ています。政府は、2012年にようやく国際人権規約の「高等教育の漸進的無償化」条項を受け入れました。高い学費を値下げする方向に踏み出すとともに、奨学金制度を拡充することは、憲法と教育基本法が定める教育の機会均等への国の責任を果たすことであり、日本政府の国際公約でもあります。この条項を守られるよう国に対し、強く働きかけていただくことを要望し、この項の質問を終わります。
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≪千葉教育長≫ご質問にお答えいたします。
はじめに、奨学金返済が困難な学生の状況調査や相談の設置についてでありますが、このような学生の調査や相談については、学生にとって身近な大学が対応し、卒業後の返済などの相談については、奨学金事業を行う団体が対応するのが望ましいと存じます。
なお、市教育委員会に事務局を置く公益財団法人岩手育英会では、奨学金の返済について、随時対応しており、その状況に応じて、返還猶予を行ったりしております。
次に、奨学金制度の無利子化についてでありますが、奨学金制度は教育の機会均等の理念の下、意欲と能力のある学生が経済的理由により、就学を断念することがないようにするための制度であることから、無利子化は必要な制度であり、今後も継続すべきものと存じております。
次に、現在の奨学金制度における所見についてでありますが、無利子奨学金、有利子奨学金のほか、独立行政法人日本学生支援機構では、所得連動返還型無利子奨学金制度を平成29年度から実施することとしており、この制度は、意欲と能力のある学生が、経済的理由により、就学を断念することがないようにするための、重要な制度であると存じます。
次に給付型の奨学金に対する所見についてでありますが、卒業後の返還を心配せずに、学業に専念することができ、卒業後の就職が厳しい中でも、返還に苦しむことなく、将来の生活設計を考えることができるなど、給付型の奨学金制度の役割は、大きいものと存じます。
次に、給付型奨学金の早期実施を国に求めることについてでありますが、これにつきましては、これまでも国に対して、全国都市教育長協議会を通じて無利子奨学金の事業費の増額や給付型奨学金制度の拡充等、奨学金事業のさらなる充実について、要望しておりますが、今後も、機会を捉えて、国に働きかけてまいりたいと存じます。
≪熊谷公室長≫ 次に、奨学金の返還支援制度の創設についてでありますが、県では、国の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に位置付けられている「奨学金を活用した大学生等の地元定着促進」にかかる制度の創設に向け、検討を行っていると伺っております。
また、全国市長会においては、平成28年6月8日に、若者の地元企業への就職・定住につなげるための「地元回帰等に係る奨学金免除制度の拡充」など、首都圏の若者に対する地方への就職支援策の一層の拡充について特別決議し、国の関係機関に要請したところであります。
市といたしましては、これらの動きを注視するとともに、先進事例を把握するなど、調査・研究してまいりたいと存じます。 |