生活保護について伺います。厚生労働省の6月12日の発表によると、今年3月に全国で生活保護を受けた人が前月比5,835人増の216万1,053人となり、11か月連続で過去最多を更新しました。受給世帯も157万8,628世帯と過去最多となっております。改めて、当市の実態についてお知らせ下さい。
生活保護制度は、いま重大な岐路に立たされています。すでに、国の2013年度予算では、生活扶助費の削減が決められました。3年間かけて総額740億円削減するという計画です。今年の3月議会の質問では、盛岡市の影響額は、3年間の推計で2億2千万円の減額ということでしたが、その後、具体的に世帯への影響について試算していれば、お示し下さい。
さらに、安倍政権は5月17日に、「生活保護法改悪案」と「生活困窮者自立支援法」閣議決定し国会に提出しました。1950年に制定された現行生活保護法の本格的な改定は初めてとなります。その内容は、生活困窮に陥った人をとにかく救うという現行法の仕組みを根底から覆す大改悪です。
生活保護制度は、現行法では、生活保護の申請者が口頭でも意思表示すれば、実施機関が要件を吟味し、保護を開始するかどうかを期限内に回答する義務を負っています。しかし、改悪案では、申請者に書類提出の義務を負わせ、試算や収入などを記載した申請書の提出や、厚労省が定める必要書類の添付を求めています。申請時に必要書類がそろっていないと申請できなくなり、申請という制度利用の入口で生活保護のしめつけを強め、申請権と人権を侵害するものです。
さらに、現行法では、扶養は保護利用の要件ではありませんが、改悪案は、扶養義務者や同居の親族に対して扶養が困難な理由について「報告を求めることができる」と規定しています。実施機関が官公署などに資産や収入などの資料提出を求め、銀行や雇い主に照会することまで可能になります。
こうした改悪案に対して、日本弁護士連絡会は反対の声明を発表しています。①窓口で書類の不備などを理由に追い返す違法な「水際作戦」を合法化する、②扶養紹介によって保護申請にいっそうの萎縮的効果を及ぼす―という点で、看過しがたい重大な問題がある、と指摘しています。そして、「我が国における生存権保障(憲法25条)を空文化させるものであって到底容認できない」として廃案を強く求めています。
また、国連の社会権規約委員会は、日本政府に対して、「生活保護の申請手続きを簡略化し、申請者が尊厳をもって扱われることを確保する措置」を講ずることや、「生活保護に付きまとうスティグマ(恥の烙印)を根絶するために国民を教育する」ことを勧告しています。こうした、日弁連の生命や国連の勧告をどのように受け止めますか。ご所見をお伺い致します。
まさに、今回の改悪は、申請権と人権を侵害し、国民の生存権を危うくするものに他ならないのではないでしょうか。私は、これまでの盛岡市の生活保護行政は、本当に頑張っていると感じてきました。全国で行われているような「水際作戦」は行われず、むしろ、例えば、リーマンショックの時に派遣切りにあった労働者が、県外から盛岡市にも来ました。その時に、私たちも取り組みの中から改善を求めてきましたが、盛岡市はとにかく救うことを第一に要請にも応えて頑張りました。これまで積み上げてきた、「国民の命を守る」という行政が、国の法改悪によって、できなくなってしまう重大局面にさらされています。
谷藤市長は、どのように認識していますか。また、住民の命を最終的には守る立場として、「推移を見守る」では済まない状況となっていると思いますが、その点はいかがでしょうか。反対の声を上げるべきではないでしょうか。ご所見をお伺い致します。
それからもう一つ、「就労可能な被保護者の就労・自立支援の基本方針について」についてですが、“就労による自立の促進”の名の下に、保護開始後3か月~半年の間に「低額であっても一旦就労」することを基本としています。
これは、失業者本人の自立につながらないだけではなく、大量の生活保護利用者が低賃金の短期・不安定雇用に流れ込めば、雇用全体の質を押し下げることになるのではないですか。いま当市で行っている「就労支援プログラム」は、社会から離れていた人を復帰させることも含めて、丁寧に就労に結び付けていくものと認識していますが、国の改悪によって、乱暴に社会に放り出されることになるのではないですか。どう影響していくとお考えかお示し願います。
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(熊谷保健福祉部長) 当市の生活保護の現状についてでありますが、各月の生活保護受給世帯数と受給人員数をそれぞれ年度ごとに平均した値で、ここ数年の推移をみますと、平成21年度は、生活保護受給世帯が2,954世帯で受給人員が4,213人、以下同様に22年度は、3,361世帯で4,826人、23年度が3,622世帯で5,221人、24年度が3,740世帯で5,307人と増加してきておりましたが、25年4月では3,752世帯、5,277人となっており、受給世帯数及び受給人員が過去最多であった24年8月の3,756世帯、5,333人と比較して、世帯数で4世帯、受給人員で56人の減でほぼ横ばいとなっております。
次に、生活扶助費見直しによる具体的影響についてでありますが、国が示す生活扶助基準額の見直しのモデル世帯ごとに月額で比較しますと、25年度については、30歳代と20歳代の夫婦と4歳の子どもの3人世帯では月額約5,000円の減額、以下同様に40歳代夫婦と小中学生の4人世帯で約6,200円、70歳代以上の単身世帯で約1,200円、60歳代の単身で約860円、40歳から59歳の単身で約1,400円、20歳から40歳の単身で約2,300円、70歳代以上の夫婦2人世帯で約2,100円、60歳代夫婦2人世帯で約1,700円、30歳代の母親と4歳の子どもの2人世帯で約2,800円の減額になるものと試算しております。
なお、生活扶助費は、今年度につきましては、最終見直し額の概ね3分の1の減額となり、引き続き26年度、27年度と段階的に減額していくこととなります。
(谷藤市長)次に、生活保護法の改正についての私の認識についてでありますが、今回の改正は、必要な方には確実に保護を実施するという基本的な考え方を維持しつつ、今後とも生活保護制度が最後のセーフティーネットとして、憲法第25条に規定する生存権を具現化し、最低限度の生活を保障し、自立を助長することを目的とする制度として、国民の信頼に応えられるよう改正されるものであると認識しているところであります。
また、今回の改正案については、国会審議により修正が加えられ、「申請書の作成や必要書類の添付ができない特別に事情があるときは、申請書の提出や書類添付を要しない。」とした内容が追加されているところであり、要保護者の状況に応じた相談・申請の対応が可能となることから、申請権を侵害するものではないと認識しております。
なお、改正法案の附則において、「改正法の施行後5年を目途として、改正規定の施行状況を勘案し、規制の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずる。」とされていることから、改正法施行後の生活保護実施の状況をみて、課題があると認められる場合は、全国市長会を通じて意見を申し述べてまいりたいと存じます。
(熊谷保健福祉部長) 日本弁護士連合会の声明や国連の勧告をどう受け止めるかについてでありますが、今回の生活保護法の改正案では、国民の生活保護制度に対する信頼を高めること等も改正の趣旨とされており、申請書の提出に係る手続の整備と、生活保護の開始に当って、扶養義務者に対し厚生労働省で定める内容の通知をすることとしたものであります。
このうち、申請書の提出に係る手続の整備につきましては、国会審議により修正が加えられ、特別の事情があるときは、申請書の提出を要しないとされたほか、扶養義務者に対する通知につきましては、厚生労働省において、明らかに扶養が可能と思われるにもかかわらず扶養を履行していないと認められる極めて限定的な場合に限ることとし、その旨を省令に明記する予定としておりますことから、保護申請に対する萎縮的効果を特に及ぼすものとは考えていないところであります。
また、制度運営の簡素化等については、生活保護制度が国民からの信頼を得る視点とのバランスを考慮することが必要でありますことから、国において、適正に対応すべきものと存じます。
次に、就労・自立支援の基本方針の施行による影響についてでありますが、国の基本方針は、本人の同意を得た上で計画的な求職活動等の支援を行うことを基本としており、就労に何らかの阻害要因がある方については、勤労意欲の喚起を含めた適切な事業に移行するなど、個々の状況に合わせた支援を行うこととされており、また、ある程度の稼働能力を有する方については、生活のリズムの安定や就労経験の積み重ねにより、その後の就労に繋げやすくするという観点から、短時間、低収入であっても一旦就労する方向で支援することとしているものであります。
当市におきましては、生活保護の受給に至った方が、就労できない状況が長く続いた場合、自立が困難になる傾向がみられることから、これまでも、個々の状況に応じ、「就労支援事業活用プログラム」、「稼働能力活用プログラム」及び「職場体験等事業」の3種類の就労支援プログラムを実施し、就労や社会参加に向けた支援を行っているところであります。
このようなことから、この基本方針は、これまで当市が実施してきた支援内容と変わるところはないものと考えております。
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